「風林火山」は、2007年1月7日から12月16日まで放送された大河ドラマです。
2017年、4月からNHK BSプレミアム日曜昼12時から、大河ドラマアンコール枠で再放送されています。
2017年10月1日に放送されたのは、第27回「最強の敵」です。
前回、天文16年(1547)7月、信濃佐久の笠原清繁(ダンカンさん)が、挙兵しました。援軍の関東管領軍を、板垣信方(千葉真一さん)と甘利虎泰(竜雷太さん)が撃退し、山本勘助(内野聖陽さん)をはじめとする家臣は、志賀城を降伏させることを提案しましたが、武田晴信(市川猿之助さん)はそれを受け入れず、力攻めで落とすのでした。
未だ負けを知らない晴信。諏訪の由布姫(柴本幸さん)のもとへ帰陣し、「負ける事が恐ろしい。」と本音を漏らすのでした。
前回の第26回「苦い勝利」を見逃した方は、是非こちらをどうぞ。
それでは、第27回「最強の敵」のあらすじと感想です。
村上攻めで意見が割れる
晴信は、家臣を集めて敵に攻撃の前に攻めようと、その攻め入り先を話し合っていました。信繁(嘉島典俊さん)は、多くの兵を失い、領民も疲弊しているので控えようと意見しますが、聞き入れません。馬場信春(高橋和也さん)は「この機に一気に村上を叩きましょう。」と意見すると、後ろで控えていた武将たちも賛成の声を上げます。
家臣たちの意見が割れるなか、勘助は「御屋形様の次なる敵は、御屋形様のご心中にございます。そのご心中の敵をお見定めにならぬ限り、家臣の意が一つになる事はなかろうと存じます。」と言うと、晴信は激高し、「敵はとうに見定めている!次は村上攻めに取り掛かる!」と一方的に決めてしまいました。
話し合いの後、甘利は勘助を呼び止め、村上攻めに関して献策しなかった事を責めます。甘利は勘助が、自分の策なしで勝てるのか、晴信を試しているのではと疑っていたのです。
「たとえ負けても、一つの負け戦が百の勝ち戦を生む事もございます。」と勘助が言うと、甘利は怒ります。
「おぬしなど、負け戦の何たるかも分からぬ!おぬしには、戦など押すか引くかの駆け引きに過ぎぬかもしれぬが、そこの真田殿、相木殿に聞いてみるがよい。」と言うと、真田幸隆(佐々木蔵之介さん)と相木市兵衛(近藤芳正さん)は顔を上げず黙って聞き入っています。
「何故、今はかつての敵に仕えておるのか。皆、己が妻子が大事。所領が大事。
己ばかりが大事なおぬしとは違う!己の利害のみに生きるおぬしなればこそ、御屋形様をお止めしようはせなんだのじゃ!」と甘利は続けると、勘助は否定します。
甘利はしゃがんで勘助を見つめ、「戦の勝ち負けとは、己が誰を裏切り、裏切らぬかではない。生きるか死ぬかでもない。何を守り、何を失うかじゃ。守るものあれば、いかにしても勝たねばならぬ!それが戦じゃ。村上の首は、我が甲斐国、数万の命じゃ!。」と口を小刻みに震わせながら、力を込めて言うと、勘助の肩を叩き、バトンタッチのような仕草をして去っていきました。
甘利の考えは、一貫した立場を保てない事を悩んでいた平蔵(佐藤隆太さん)に、勘助が語っていた「己を裏切らねばそれでよい。己が「こうしたい」と欲すれば、裏切らねばならぬ相手も出てくる。」という言葉とは、違う考えでした。常に自分自身の為の勘助。守る事を考えている甘利。勘助に甘利の言葉は届いたのでしょうか?
信繁と諸角虎定(加藤武さん)は、家中でも意見が割れていることを、大井夫人(風吹ジュンさん)に話します。今の晴信は、まるで父信虎(仲代達矢さん)と同じ振る舞いをしているようです。信虎の追放で、領民の不満も解消されてきていたのに、たった6年でまた同じ憂いを抱える事になりました。
諸角は、「今にして思えば、御先代様が、信繁様に家督をお譲りになられようとした事は、よくよくの訳があってのではないかと存じております。
御先代様は、若くして晴信様が家督を継げば、かくの如し、力押しで他国に攻め入るであろう事を、見抜かれていたのではないかと。我らが追放し申したは、性急に過ぎたのやもしれませぬ。」と後悔を口にします。信繁は「今更何を。」と言います。
諸角は、大井夫人に向かって、「次の戦で、本陣を突かれるようなことがあれば、この身を懸けて信繁様をお守りしとう存じます。」と誓います。信繁は「兄に逆心とも取れる言葉。」と叱ります。しかし、諸角は武田家を憂う、一心から発したのでした。
甘利が村上へ
相木は、村上の間者である平蔵を呼びつけ、武田が来年の8月に出陣するとの情報を、村上に伝えるよう命じます。
平蔵は、相木の指示通り、朝早くに村上の下へ向かっている道中で、かなりの数の刺客に襲われます。真田の素破、葉月(真瀬樹里さん)が助けに入りますが、さらに数が増え、太刀打ちできませんでした。葉月は真田に報告。刺客の数からして大物のはずと相木に話します。
真田は「甘利の家来では?」と推測しますが、「まさか裏切るとは…。」と自らの推測を打ち消すのでした。
しかし、真田の読みは合っていました。平蔵は村上領に戻り、主である矢崎十吾郎(岡森諦さん)に、甘利を引き合わせます。甘利は矢崎に「村上殿にお取次ぎお願いつかまつる。」と申し出ました。
他国にも知れ渡るほどの武将である甘利を、城で迎えるわけにはいかず、別の場所で対面を果たした村上義清(永島敏行さん)と甘利。
甘利は「相木は我が主が遣わした間者。」と相木の事を打ち明け、武田の出陣は相木が伝えた8月ではなく、2月だと話します。これで信じてもらえるだろうと言います。
そして、「相木に代わり、それがしがまことの味方となりましょう。」と申し入れます。「狙いは何か。」と村上が尋ねると、「甲斐でござる。甲斐は今、決して一枚岩ではござらぬ。その甲斐を憂いての事にござる。」と答えます。
「そなたは己の主を討つ気か?」と村上が聞くと、静かに「御意。事が成った暁には、それがしの後ろ盾になって頂きたく存じます。」と言って頭を下げる甘利でした。
由布姫にも討たれに出向いた事もある、甘利です。この事が、一体どう甲斐の為の行動となるのか?分かるのは次回になりそうです。
一方、志賀城から連れ出された笠原の正室、美瑠姫(真木よう子さん)は、小山田信有(田辺誠一さん)の下に置かれ、小山田に対して警戒を解いていませんでした。
しかし小山田は、子供の出来なかった彼女が、側室や養子の中で肩身の狭い思いをしてきたことを指摘し、「ここで幸せになればよい。」と優しくしたことで美瑠姫は心を開き、「今は満ち足りている。」と小山田を受け入れたのでした。
板垣が小笠原を調略
信濃府中、林城では、高遠頼継(上杉祥三さん)が小笠原長時(今井朋彦さん)の下へ行き、挙兵するよう促します。「村上を利用し、武田の相手をさせておいて、その隙に諏訪を攻めましょう。」と提案するのでした。
高遠の動きは板垣にも伝わり、板垣は伊那の藤沢、諏訪の西方衆にも調略の手を伸ばしてくるかもしれないと懸念します。河原村伝兵衛(有薗芳記さん)を信濃に遣わし、小笠原家中を探って、武田家に寝返る家臣を探し、人を集めて好きなだけ府中に遣わすよう指示しました。
今や伝兵衛は、板垣の大事な家来と成長していました。
板垣が、伝兵衛に指示している様子を見ていた勘助は、「小笠原は用心深い故、武田に戦を仕掛けるは、此度我らが村上との戦で劣勢が極まった時。
ご無礼ながら、板垣様は、村上との戦に弱腰になっておられるようにお見受けいたします。」と見透かしたような事を言います。
板垣は「馬鹿な!今や村上は信濃の最強!戦続きで疲弊した我が軍勢が、容易に勝てると思うか?もはや、そちも御屋形様を止める術もなかろう。されば、いかにする?
御屋形様を、討ち死にさせる訳にはいかぬのじゃ!」と言うと、決意を込めた目で遠くを見つめるのでした。
勘助は諏訪、小坂観音院に出向きます。志賀城から帰陣した夜、晴信は、由布姫の笛を一晩中聴いて、やっと眠りについたのだと聞きます。由布姫は、四郎も晴信と似て、由布姫の笛の音を聴くとよく眠るのだと言います。
「誰に負けるのも恐ろしい。」と晴信が言っていたと聞いた勘助は驚きます。
「御屋形様の妄念がそうさせるのじゃ。御屋形様は私のように、戦に負けて、まだ大事なものを失った事がない。失ってきたのは、戦をする事への恐れであろう。
戦への恐れを失った時、初めて負ける恐れが首をもたげてきたのじゃ。かと言うて、あえて負ける訳にもいくまい。」由布姫は晴信の心情を読みます。甘利と同じです。
勘助は由布姫の言葉を聞いて、板垣が最後に言っていた「次なる戦…。」の言葉と決意に満ちた目を思い出すのでした。
板垣が晴信を説得
天文17年(1548)正月、晴信は利を以て家臣たちの心をまとめようとしていました。
「いよいよ村上方に攻め入る。我らが存亡を懸けた激しい戦となろう。その働きに報いねばならぬ。わしは皆に約束を致す。これより先、信濃においては、各々手柄に応じ、所領を分け与える。」と晴信は、朱印状を家臣たちに見せるのでした。
晴信は飴を与えているつもりなのでしょうか?
板垣と勘助も諏訪から戻りました。板垣は晴信に「此度の出陣、今しばらくお待ち下され。」と改めて進言します。「待ってどうする?」晴信は聞き返します。
「信濃の内情を見極めまする。」勘助が言います。「この期に及んで異なる事を申すか?」と晴信がイラついているようです。
「村上攻めには異は唱えません。されど此度の敵は、確たる勝算もなく、ご出陣をお決めになられた御屋形様のご心中にございます。」と勘助が言うと、「控えよ!」板垣が止めます。
「御屋形様は、我らの力を見込まれておられるのじゃ。されど御屋形様、戦に負けた者が、恨みを残したままでは、国は治まりません。この勘助も申しておりました。
己の国とは、人であると。御屋形様に他ならぬと。」と板垣は言います。
「わしが負けてもそう言えるのか?勝っておればこそ言える事だ!」晴信は更にイラつきながら言います。
「板垣、そちはわしが変わったと嘆いておるやもしれぬが、それはそちの見当違いだ。
このわしは、これからを考えて生きておる。機を見て変われぬ人間は必ずや滅び去る!」と言い切ると、板垣が「いかにもでござる。ただ、人の道を違えてはなりません。」と同調しながらも否定します。
「人の道は決して一本にあらず!戦に勝つ道もまた然りだ!」晴信はまた言い切ります。
「いいや。一本であるべきです。一本であらずして、我ら家臣は共に歩む事は出来ません。御屋形様は、変わられたのではなく、自らの力を信じられなくなられているだけの事。」という板垣の言葉に「わしの力とは何じゃ?」と晴信は聞きます。
「御屋形様の力とは、人を動かす力でござる。その心を以て人を動かす力でござる。この勘助を軍師にしたのもその力。そのような力を持てる主は、他にはおりませぬ。我らは、得難い主君にお仕えしているのでござる!その御方に、命を捧げているのでございます。何卒、何卒、自信をお持ち下さりませ!」板垣は涙を浮かべながらそう言うと、深々と頭を下げます。勘助も目に涙を浮かべてその様子を見つめるのでした。
今回の副題の「最強の敵」は、村上ではなく晴信の心、それに気づいて欲しい家臣団の人たち、ということだったのでしょう。切ない回でした。
次回は、第28回「両雄死す」です。
甘利と板垣が最期を迎えるようです。晴信は一体どうなるのでしょうか?