2018年の大河ドラマ「西郷どん」に登場する篤姫(於一/篤姫/天璋院)。
これまでにも様々なドラマにおいて、美しく凛とした魅力のある女優さんたちに演じられてきました。2008年には篤姫が主人公の大河ドラマ「篤姫」も放送されましたね。この時は、篤姫を宮崎あおいさんが好演され、篤姫ブームを起きたのも記憶に新しいのでは。
「西郷どん」では、北川景子さんが演じるということで話題になっています。
12代将軍・家定の正室になった篤姫ですが、外様大名の一族の娘がこうした身分につくのは、それまでの慣例からすると異例のことで、様々な事情が絡んで実現に至ったと言われています。
篤姫の輿入れにはどのような事情があったのでしょうか?
分家の娘から将軍の御台所へ
篤姫は、天保七年(1836年)に薩摩藩主である島津家の分家の娘として生まれました。
本家当主・島津斉彬の養女になり、さらには大臣・近衛忠煕の養女ということにして、徳川家に輿入れし、13代将軍家定の御台所(正室)となります。このとき、数えで21歳でした。
普通に考えれば、将軍の正室に選ばれるというのは、当時の女性としては最高の出世です。
けれども、この結婚は篤姫に幸運をもたらす類のものではありませんでした。お相手の家定は12歳も年上の寡夫で、虚弱体質の持ち主でした。知能も並以下で、さらには性的欠陥を抱えているときています。
篤姫を待っていたのは、夫に魅力がまったくないうえに、子を持って育むこともできないという結婚生活だったのです。
篤姫に課せられた政治的使命
実は三代家光以降、将軍の御台所には宮家や摂関家の娘を迎えるという慣例ができあがっていました。外様の島津の姫が御台所になるというのは、かなりの例外ということになります。
島津家出身の御台所といえば、家定の祖父にあたる11代将軍家斉の正室・茂姫が挙げられますが、初めから将軍家の御台所として輿入れした篤姫とは少し事情が異なっています。家斉は、元はといえば一橋家の長男でした。茂姫と家斉の縁談は、ふたりが幼いころから島津と一橋の約束事として定められていました。将軍家の跡継ぎの急死により家斉が思いがけず将軍になったために、茂姫もまた思いがけず将軍の御台所となるに至りました。
篤姫が正室として輿入れさせられたのは、養父である島津斉彬の思惑が絡んでいるというのが通説です。
一つ目は、当時の島津家で勃発していた大きなお家騒動に関する思惑。このお家騒動を自分に有利な形で収めるために、自分の娘を将軍の正室にすることで幕府の力を背後に持とうとしたと言われています。
もう一つは、将軍の後嗣問題に関する思惑。家定には子供がいないため、御三家や御三卿から後の14代将軍となる養子をとる必要がありました。
候補者として有力だったのは二名。紀州徳川家の紀伊慶福と一橋家の一橋慶喜です。
慶福を推す紀州派と慶喜を推す一橋派は、激しい政争を繰り広げており、斉彬は一橋派の主導者のひとりでした。後嗣問題に絶大な影響力をもつ大奥の女性陣のほとんどが紀州派に染まってしまっているのを目の当たりにして、大奥への工作の必要性を実感します。
自分の息がかかった娘を御台所として送り込み、将軍を妻という立場から説得し、大奥を巻き込み、一橋派の勝利を呼び込む……斉彬が篤姫に課した使命は、相当に重いものだったと言えます。
紀州派の勝利~結婚生活の終焉
結論を言うと、篤姫は課された使命を果たすことはできませんでした。
大奥の反一橋の気概は斉彬らが考えていた以上に強烈で、一橋慶喜を14代将軍として擁立するよう流れを変えることはできませんでした。そもそも、新参者の若い御台所の力で状況を変えられるほど、大奥は甘いところではなかったのです。
紀州派と懇意にしていた井伊直弼が大老に就任すると、紀伊慶福が後嗣に決まり、一橋派は処罰されてしまいます。同時期に夫の家定が死亡し、篤姫は輿入れしてからたった2年で未亡人になり、天璋院を名乗るようになります。
頼りの島津斉彬も鹿児島で急死し、この時期の篤姫はむなしい気持ちを抱えていたかも知れませんね。
最後に
現代の感覚からすると、政略結婚は女性の意思を無視したひどい制度と思いがちです。けれども、自由な恋愛による結婚がありえなかった世界に生きる女性たちにとって、政略結婚は当たり前のことでした。
複雑な事情のある家に嫁がされるということは、そのような環境でもお家の有利になるよう上手に立ち回れる姫君だと周辺から見込まれていたとも言えます。
篤姫も、賢君・斉彬に見込まれて将軍家の御台所となりました。斉彬から課せられた使命を果たすことこそできませんでしたが、未亡人となったのちに発揮した大奥最高権力者としての確かな手腕を考えると、「さすが、藩主に見込まれるほどはある」と思わずにいられません。
のびのびと生まれ育った薩摩で暮らしていた篤姫が強い覚悟をもって将軍家に輿入れする……大河ドラマではどのように描かれるのか、注目したいと思います。